2026/10/14 22:52
9月の長雨からようやく解放され、晴れの日が増えてきた。もう10月だ。
今回訪れたのは、岩手県盛岡市。今年で5回目となる「北のクラフトフェア」を訪ねた。
厨子屋銀座さんでのPOPUPで商品を並べてみたとき、江口堂で紹介している道具には、東北地方のものが少ないなと実感した。そこで、まずは「北の」クラフトフェアを覗いてみようと思い立ったのだった。
写真は、北上川の向こうに望む岩手山。冠雪はまだない。川沿いには、鮭ものぼるという案内があった。水も澄んできれいだ。
前日入りをして、フェア当日の混雑を避けながら、気になっていた場所をいくつか訪ねた。


宮沢賢治の資料を展示する空間には、直筆の手紙があった。丸みのある文字を見ていると、この文字の向こうに賢治がいたのか、と心が動いた。柚木沙弥郎さんの絵も、ともに展示されている。
2階建ての母屋には、たくさんの品々が、ゆったりと美しく並んでいた。都内でもなかなか見かけない、贅沢な展示空間。素敵なお店だった。個展を開くスペースや、中南米の民芸品をまとめて展示する、こぢんまりとした空間もあった。
ちょうど「星耕硝子・中嶋窯 二人展」が開催されていて、いいタイミングで見ることができた。老若男女、さまざまな人が訪ねていた。店舗の奥には北上川が悠然と流れ、立地も素晴らしい。
「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」の手ぬぐいにグッときたけれど、「全文だったらな」という思いが湧き、今回は見送った。カミさんへのお土産などを物色して、お店を出た。
界隈では、「よ市」と名づけられた、歩行者天国のような市が立っていた。新鮮な野菜が並び、骨董品を売るおじいちゃんがいて、クラフトビールや大きな蒸し牡蠣も。出店と人でにぎわっていた。葉つきのリンゴが並んでいて、目を引いた。
その後、ホテルにチェックイン。荷物を置いて身軽になり、フェア会場方面へ向かった。





次に訪ねたのは、minä perhonen(ミナ ペルホネン)。古い町家を改修してオープンしたお店だ。通りを挟んで建つ建物には、手の込んだ漆喰の仕上げが見られる。足元から頭上まで、声高には語らない、静かなこだわりが心地よかった。
皆川さんは、何十年もこの地で続けていくことを考え、周囲になじむことを意識して店を構えるのだという。中庭を中心に、左右にギャラリースペースやショップがあり、建物を巡る時間も楽しかった。

夜は、盛岡名物の「じゃじゃ麺」を食べた。
肉みそを柔らかめの麺に和えていただく、盛岡のソウルフード。太めの千切りキュウリや、赤かぶの漬物が添えられている。卓上のおろしニンニクやラー油などを加え、自分好みの味にしていただく。餃子と地ビールも頼み、しっかり食べた。
締めには、麺をひと口ほど残した皿に生卵を割り入れ、よく溶いてからスープを注いでもらう「ちいたんたん」を。なんとなく、禅僧が食後の茶碗をきれいにすすぐさまを思い浮かべた。飲み干すと、きれいな皿が残った。
もう一軒、とも思ったけれど、盛岡の夜は少し冷える。薄着の東京もんは、コンビニでハイボールとつまみ、翌朝のヤクルト、入浴剤、それに寒かった場合に備えてカイロを買い、逗留先の北ホテルへ戻った。




いよいよ、クラフトフェア初日。
開場の10時までは時間がある。前日から「五百羅漢」の案内標識が気になっていたので、朝9時の拝観開始に合わせて出発した。
曹洞宗のお寺「報恩寺」には、一番乗りだった。お墓参りの方をお見かけしたほかは、私だけ。少しして、同じように羅漢像を見に来た男性がお一人。ゆったりと拝観できた。
現存する499体の羅漢像には、この世の人がする、あらゆるポーズがあるような気がした。ユニークだなと思う姿も、1700年代につくられたものだと考えると、その頃にもこんな仕草をする人がいたのだろう。人間、変わらないものだなと思った。
朝の一服に訪ねたのは、盛岡でも有名な喫茶店「羅針盤」。行列のできるお店だ。
私を入れて7人が並んでいたけれど、最後の一組が列を離れ、私が最後尾になった。やがて、一人客を先に案内してくださるとのお声がけがあり、前に並ぶ2組・4人に恐縮しながら店内へ。
ウインナーコーヒーをいただいた。静かな店内での一服。おいしくいただいた。





「北の……」とはいえ、出展する作り手は北から南まで、各地から集まっている。これまでお付き合いのある作り手の方々も出展されていた。実際に作品を拝見して名刺交換をした方々の拠点は、秋田県が3件、岩手県、大分県、香川県、埼玉県がそれぞれ1件。東北の作り手との新たな出会いは、秋田と岩手の2県となった。
会場は、岩手公園(盛岡城跡公園)の芝生広場。クラフトフェアまつもとほど大規模ではなく、にわのわ(千葉)よりも小ぶりに感じられ、私には程よい規模感だった。
到着したのは、11時前くらい。連休と夏のような陽気も手伝って、すでに大盛況だった。
まずは下見がてら会場をひと回りし、気になるブースをじっくり見ることに。人気の作り手のテントには人だかりができ、お買い物をする方々であふれている。お話ししたい方には、人が少なくなるタイミングを見計らい、何度か会場を回りながら、その機会をうかがった。
気になるものがあっても、卸販売はされていない場合もある。クラフトフェアでの直接販売や、催事での受注会を中心に活動する方もいて、「残念」と思うこともあった。また、仕入れの掛け率によっては、今の江口堂では扱うのが難しく、自分の力不足を感じることもある。
遠出をすると、「また今度、確認すればいいか」とも言っていられない。その場で取引条件などを伺い、取り扱いの可能性を確かめておきたい。
「できるかもしれない」という甘い期待だけを持ち帰ることなく、できること、難しいことを確認し、自分なりに納得していく。結局、会場を4回ほど回った。
初めての「北のクラフトフェア」。今後の仕入れに向けて、関係を築いていけそうな作り手の方々とも出会えたので、まずまずの成果だったと思う。

初日をたっぷり回り、それなりの納得感を得たので、夕方までは気になるお店を訪ねた。
フェア会場そばの家具店「Holz」、北ホテルそばの書店「BOOKNERD」へ。BOOKNERDでは、義姉へのお土産に、アイヌに関する図録を買った。

夕方からは、今回のフェアの出展者選考に携わった皆川明さん、木工作家の三谷龍二さん、新潟のF/styleのお二人、ひとり問屋・スタジオ木瓜の日野明子さんによるトークセッションを拝聴した。テーマは「自分のかたち、社会のかたち」。
自分がつくったものを他人が使うということは、人との関わり、ひいては社会との関わりを考えることでもある、という皆川さんのお話。人に評価されなくても、自分が信じることを続けるのが大切だ、という三谷さんのお話。印象に残る言葉が多かった。
皆川さんの取り組みとして、はぎれのアップサイクルが注目されているけれど、その背景も知ることができた。
生地を裁断する仕事が、デザイナーとしての仕事の始まりだったという。そこで出るはぎれが「ゴミ」として捨てられることに違和感を覚え、捨てるものなら持ち帰ってもいいだろうと、持ち帰っていたそうだ。
そもそも、どの生地も、さまざまな作り手の手を経て生まれている。そのことに思いを馳せれば、布は大きさが違うだけで、そこに込められた思いや、費やされた時間の価値が変わるわけではない。
ミナ ペルホネンには、はぎれを商品化する専門のチームがあるという。はぎれをセットにして販売し、その収益を社会に還元する取り組みについてもお話があった。自分のかたちが、社会のかたちにつながっている。また、皆川さんは「抽象工芸」という新たなカテゴリーにも言及された。
例えば、ある作り手のスプーンやフォークを使って、安らぎや喜びを感じるなら、その作り手による造形物を壁に飾り、眺めることでも、同じような心持ちになるのではないか。そういう趣旨のお話だった。
実際に、作り手のものをくらしに採り入れて使っていると、手にした道具から作り手に思いを巡らせたり、産地を訪ねたときの記憶がよみがえったりする。
食事をするため、床を掃くため、調理をするため。道具はそれぞれの役割を果たすだけでなく、ものづくりの背景や、作り手の気配も併せ持っている。食卓を温もりのある場にしてくれる、そんな作用もあるのかもしれない。
道具と人が結びつき、日々の時間に彩りを添えるなら、その人の手がつくったものは、用途が何であれ、安らぎや温もりにつながるのかもしれない。手にするもの、目にするものを通じて、作り手との結びつきが、自分の中に育っていくのだと思った。


帰りは、ももどり駅前食堂へ。こちらも行列のできるお店だった。新幹線の出発まで1時間あったので、余裕かと思いきや、料理が焼き上がるまでにも時間がかかった。どうりで行列も進まなかったわけだ。写真は「ももどり定食」1,300円♡ 夜も定食があるのは、ごはん好きにはありがたい。食後にデザートをと頼んだ、ビスケットの天ぷら「ビス天」はタイムアップでテイクアウトにしてもらって持ち帰ることに。次回は、ゆっくり味わっていただきたい。
結局、東京行き最終の新幹線に飛び乗ったのは、出発5分前。

