2025/07/04 08:08
こんにちは。江口堂です。
私たちがご紹介している品々は、生活必需品というわけではないかもしれません。
今は、日々の道具を手頃な価格で、十分な機能を備えたものとして簡単に手に入れることができます。メーカーは材料や人件費、コストに知恵をしぼり、本当によく考えられた商品を、できるだけ手の届きやすい価格で届けてくれています。
そんな中で、私たちが提案するのは、それらとは少し距離のあるモノたちです。
どれも、大量生産ではなく、ひとつずつ、作り手の手から生まれたもの。手の跡があり、暮らしの気配があり、なんだか「その人そのもの」とも言えるような存在感があります。
キッチン、リビング、浴室、玄関、ダイニング……
暮らしのいろいろな場面に登場する道具を通して、ふと作り手の顔や暮らしぶりがよぎる瞬間があります。
「〇〇さん、どうしてるかな」「また会いに行きたいな」
使い続けているうちに、不具合が出て「直してもらおうかな」「ここがこうだったら……」と、道具を介して作り手と対話しているような気持ちになることさえあります。
江口堂のセレクトは、結局のところ、私たちの感覚で選んだものです。
けれどその感覚に共感してくださる方がいて、道具を通じて、作り手の思いや背景にまで気持ちが届いたとしたら――
それは、とても嬉しいことです。
できるだけ少ない道具と、長く付き合い、
いずれは道具をバトンのように、次の世代へ受け渡していく。
そんなふうに、人と道具が、時間をかけて関係を育んでいけるような「きっかけ」をつくっていけたら、と願っています。
たとえばこちらの動画でご紹介しているのは、イタリア北部・ロンバルディア州に工房を構える、Kimiyasu Kato(加藤公康)さんによる馬のモビールです。
https://www.instagram.com/reel/DLoQMJaqyaW/?igsh=MXhkbnlkMmhobWlveQ==
建築家でありアーティストでもある彼とご縁ができたのは、妻が以前ご一緒に仕事をさせていただいたことがきっかけ。
イタリアの工房を妻が訪ねた際、私は日本におりましたが、工房の壁にずらりと並ぶモビールたちを動画で見せてもらい、心を動かされて、販売をお願いすることになりました。
バランスをとるために使われている錘(おもり)は、彼の工房があるコモ湖のあたりで拾った、ただの石ころ。
その何の変哲もない石が、今、東京の風に吹かれてゆらゆらと揺れている――
そんなことに、私は妙にロマンを感じたりします。
暮らしの中で、役に立つわけでも、必要なわけでもないかもしれない。
それでも、そこにあるだけで心がふっと動く。
そんな「道具」こそ、暮らしの奥行きや豊かさを与えてくれるような気がするのです。
POPUPの機会などに、こうしたモビールを持ち込むこともあります。
正直、なかなか売れません(笑)。
でも、こういう「余白のあるもの」こそが、暮らしの彩りになってくれる。
そんなふうに思っています。
機能や価格だけでは測れない、ひと味違うストーリーのあるものたち。
そんな提案を、これからも続けていけたらと思います。